認知症コラム

うつと認知症

 ここではまず『うつ』の共通認識について触れたいと思います。『うつ』には『うつ病』と『うつ状態』が含まれます。うつ病の人もうつ状態になりますし、うつ病以外の人もうつ状態になることがあります。うつ病以外では、身体疾患(脳梗塞、甲状腺機能低下症など)、うつ病以外の精神疾患(認知症・躁うつ病・適応障害など)が、うつ状態の原因となり得ます。
 『うつ』の治療は由来を考えることが大事です。躁うつ病のうつ状態であれば気分安定薬、うつ病のうつ状態であれば抗うつ薬、いずれも薬物療法が治療の主体となります。(脳的要因よりも環境要因が大きい)適応障害のうつ状態であれば、非薬物療法(カウンセリング・環境調整)が治療の主体となります。
 私が医師になるより遥か昔、『この患者はうつ(うつ病性仮性痴呆)なのか(真性の)痴呆なのか』という議論が大学病院精神科でも日常的に行われていたと聞きます。21世紀になり、知見(研究により明らかにされた事柄)の蓄積により、認知症のうつ状態の経過には①うつの人が認知症になる、②認知症の始まりがうつ、③認知症の人が新たにうつを発症(あるいは再発)、があると考えられています。1つの病気の経過により全ての症状を捉えるという医学的文化が根強くありましたが、場合によっては無理矢理感があったのも事実です。そこから柔軟に併存症を認めようとする風潮へと変わっていきました。
 治療には優先順位があります。うつと認知症で治療可能性を比べると、薬物療法・非薬物療法ともにうつに軍配が上がります。認知症にうつの併存が疑われる場合、可能な限りうつの治療をした上で認知機能検査を行い、それでも失点が多ければ『認知低下あり』と判断します。診療スケジュールの組み立ても重要です。